2014/11/04 9:23 AM NEWS

納税猶予の判定も通常の損益計算で

納税者がその事業につき著しい損失を

受けた


この場合には、申請に基づく納税猶予の対象になる(国税通則法46②四)。
具体的に、「著しい損失」とは何を意味するのか、このポイントについて
問われた裁決事例があった模様。

実際のところ、納税猶予の適用は昭和51年の「納税の猶予等の取扱要領」に
寄っている模様で、本件の解釈については、以下のような定めがある。

(イ) 「事業につき著しい損失を受けた」とは調査日~前1年間(以下この項において
「調査期間」という。)の損益計算において、調査期間の直前の1年間(以下この項に
おいて「基準期間」という。)の利益金額の2分の1を超えて損失が生じていると認められる
場合~をいうものとする(後略)。
(ロ) (イ)に該当するかどうかの判定に当っては、調査期間及び基準期間のそれぞれについて
仮決算を行うこととなるが、調査日又は基準期間の末日に近接した時期において特定の損益計算
期間が終了している場合には、その期間の損益計算の結果を基に、前記の利益金額又は損失金額を
推計して差支えない。
なお、納税者が帳簿等を備えていない場合又は帳簿等による調査が困難である場合には、納税者からの
聞き取りを中心にする等その状況に応じ、妥当と認められる方法により利益金額又は損失金額を
算定して差支えない。
(ハ) (イ)及び(ロ)の損失の認定に当って、徴収上弊害があると認められるときは、資金計算上の
立場から所要の調整を行っても差支えない。

簡単に言うと、一年間の損益計算を行って損失額を計算し、その損失額の程度によって
「著しい損失」があるかを計算しよう、という取扱いになっているのである。

この点について、当局はキャッシュフローベースの計算を行うべき、といった主張をして、
期首期末に相当する棚卸資産や、減価償却費を損益計算から除くべき、として納税猶予の
申請を却下した、模様である。

審判所は、公正処理基準みたいなものを取り上げて、実際のP/L
ベースで要件を満たせばいい、と判断して当局の主張を退けたという
結論になっているが、あるべき解釈としてはどちらが正しいのか検討したい。

納税とは損益計算よりも資金繰りの一環であるから、一見すると、キャッシュ
ベースで見るべきという当局の主張は納得できる。しかし、上記の取扱要領を
見る限り、下記の理由により解釈としては誤っていると指摘できる。

① 上記(ハ)は「徴収上弊害がある」ときにキャッシュベースの計算が
できるとしているため、その旨を主張する必要性があることはもちろん、
キャッシュベースの計算は例外的と整理できること

② 昭和51年当時の状況を考えると、キャッシュフロー計算書の
重要性は今日ほど理解されていなかったため、制定当時の趣旨として、
キャッシュベースの計算をすべきと想定しているとは考え難いこと

③ 仮に、キャッシュベースの計算を行うのであれば、より
精緻な条項を置いておくべきと想定されること

こういう事情を勘案すれば、審判所の裁決は妥当と考えるが、
従来、同様の事情で申請を否認されたケースは相当多いと考える。
これらの納税者のほとんどは泣き寝入りしているのだろう。

平成26年度改正で、平成27年から納税猶予手続きの透明性が
図られることになったが、このような法令の趣旨から疑問が残る
取扱いがなされないよう、今一度制度の整備をお願いしたい
ところではある。



ABOUT ME

松嶋洋 税務調査対策専門及び税務訴訟に強い税理士。 16,000部のベストセラー『税務署の裏側』著者。 元税務調査官であり、税制改正セミナー講師を 務めるなど、税法解釈と調査対策を得意とする。 税理士が教えない超簡単な調査対策について、 無料レポート発行中
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