2015/09/07 9:51 AM NEWS
事業所得とそれ以外の所得の更正の請求
前期損益修正は更正の請求事由にならない
法人税の世界では常識的な話だが、値引きがあった場合、 売上を計上した年度に遡及して修正することはできない。 あくまでも、値引きがあった年度において損金に算入される のが鉄則である。 このことは通達で明示されている。 法人税基本通達2-2-16(前期損益修正) 当該事業年度前の各事業年度~においてその収益の額を 益金の額に算入した資産の販売又は譲渡、役務の提供その他の 取引について当該事業年度において契約の解除又は取消し、値引き、 返品等の事実が生じた場合でも、これらの事実に基づいて生じた 損失の額は、当該事業年度の損金の額に算入するのであるから留意する。 このため、更正の請求は無理、と結論付けられるのだが、 以下を見ると矛盾が生じることが理解できる。 懲戒処分取消に伴い支払われる給与差額補償 【照会要旨】 A県人事委員会は、B教職員に係る「不利益処分審査請求事案」に対し、 処分取消の裁決~をしました。これに伴いBに対して給与差額相当額~が 一括支給されますが、この課税関係はどのようになりますか。 【回答要旨】 Bが支払を受ける差額給与は、その計算の基礎となった支払済給与の 各支給日の属する各年の給与所得として課税されることとなります。 給与所得の収入金額の収入すべき時期は、「契約又は慣習により 支給日が定められている給与等についてはその支給日、その日が 定められていないものについてはその支給を受けた日」とし、 「給与規程の改訂が既往にさかのぼって実施されたため既往の 期間に対応して支払われる新旧給与の差額に相当する給与等で、 その支給日が定められているものについてはその支給日、その日が 定められていないものについてはその改訂の効力が生じた日」に より取り扱っています(所得税基本通達36-9)。 本件の差額給与は、一括して支払われる予定ですが、差額給与の課税年分 (収入すべき日)は次の理由から差額給与の計算の基となった給与の支給日とされます。 1 本件裁決の効果は、懲戒処分が取り消されたことによって、懲戒処分のなかった 状態に復するものであり、A県には当初支給済額との差額の支払義務が生じる。 したがって、教職員の給与支給日は定められているから、差額給与の計算の基礎と なった支払済給与の支給日が収入すべき日となること。 2 本件の差額給与は、A県教育委員会が遡及して発令通知を行った後に支払われる ことから、発令通知のあった日の属する年の収入となるとの見解も考えられる。 しかしながら、処分の修正又は取消しの判定が行われたときは、その判定は形成的効力 を有し、任命権者の何らの処分を待つことなく判定に従った効力が遡及的に生ずる ものとされ、例えば、免職処分が取り消されたときは、その判定により被処分者は処分の時 に遡ってその身分を回復し、雇用者であるA県は原則としてその間の給与を支給しなければ ならないこととなること。 3 差額給与について遅延損害金が支払われるが、その計算は差額給与の生じた月の 給与支給日の翌日から差額給与の支払日までの期間で計算されていること。 (注)遅延損害金は、その支払われた日の属する年分の雑所得とされます。 国税庁のホームページを抜粋したものだが、 給与所得については、各年分で修正するよう指示している。 法人税の考え方からすれば矛盾が生じるのだが、 その根拠は「継続企業の公準」なるものらしい。 会計基準においては、企業が永続するものとして 各種規定が設けられている。だからこそ、 事業年度を区切って、期間ごとに計算を行う ことが容認される、という理屈なのだ。 永続しないものについては、期間ごとに 計算を行うことは妥当ではない。来期、会社が つぶれるのが明確なのに、当期分だけの少額の 減価償却費を計上して利益がある、とすれば おかしなことになるだろう。 永続するからこそ、値引きのようなものも、 その発生段階で処理することとし、 遡及して修正することはできない、という 考えに立っているようだ。 給与所得の場合、永遠にもらえるという 前提は成立しない。退職も、解雇も あり得る世界だから。 明確な指摘はないけれど、事業所得や 法人とは、別な取り扱いとするように なっているのだ。 この場合、問題になるのは法人と個人の 所得計算。例えば、従業員と給与の金額でもめ、 さかのぼって増額せよと裁判で明示られた場合、 返還する金額は裁判で勝った時点で損金になるが、 給与所得は過去にさかのぼって修正すること になるだろう。 となれば、時効によって給与は5年修正するものの、 損金には5年超の部分も入る、と結論付けられそうだ。 理論的には正しいにしても、どうしても納得できない 結論がここにはある。
税務調査対策専門及び税務訴訟に強い税理士。 16,000部のベストセラー『税務署の裏側』著者。 元税務調査官であり、税制改正セミナー講師を 務めるなど、税法解釈と調査対策を得意とする。 税理士が教えない超簡単な調査対策について、 無料レポート発行中。
@yo_mazs
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