2016/06/27 9:32 AM NEWS

3億2900万円の賠償の裏側

税理士法人に3億2900万円の賠償命令

税理士業界に大きな衝撃を与えているのがこのニュース。事案の詳細が先日の税のしるべに
掲載されていたが、どうやら論点はDESの債務消滅益のようだ。

簡単にまとめると、以下の通り。

1 代表者借入金の解消のためのDESを税理士法人(被告)が提案
2 DESは平成18年度で時価課税が明確化されたが、税理士法人はそれを失念しており、
債務免除益を計上せずに法人税を申告
3 代表者に相続発生した際、相続税申告を担当した別の税理士の指摘で、債務免除益の計上が
ないことが発覚
4 会社は修正申告し、その損害を税理士法人に賠償請求

失念していた、という非は大きいにせよ、これほどの賠償を求められるとなると、今後の税理士
実務への影響は計り知れない。

相続税対策などで、オリジナリティーのスキームを提案することがあるが、そのこと自体極めて
大きなリスクがあるわけで、セカンドオピニオンなどの対応が必要と考えられる。

ところで、この修正申告であるが、記事を読む限り国税の調査を起因としたことではなく、自主的に
行ったものと思慮される。となると、見方を変えるとこのような修正をしなければ、特に指摘が
なかったのでは?とも思える。


DESについて、債務免除益の計上を要請した判例がある。

東京地裁平成21年4月28日判決(TAINS Z259-11191)
原告が、本件自己株式の譲渡により得た利息債権の時価は、1億1202万2256円であると認められ、
混同により消滅した利息債務3億2470万円から本件利息債権の取得価額1億1202万2256円を
控除した残額である2億126万7744円につき、債務消滅益が生じたものと認めるのが相当であり、
所得金額の計算上、これを益金の額に算入すべきものと解される。

しかし、実務でここまで厳格かと言えば、決してそうではないという印象がある。というのも、債権の
時価を算定するなど不可能に近いわけで、国税がそれを否認するとなると極めて大変だからだ。

加えて、相続税の申告の際、代表者借入金は簿価で評価しないと国税はむしろうるさいわけで、となれば
債権の時価は会社の簿価とみる余地が大いにあり、となれば債務免除益の課税をするのは厳しい側面がある。

もちろん、金額によっては否認する実益はあるものの、そのケースは少ないと思われる。

このあたり、言葉にしづらいが、多くの税理士は実感しているだろう。もちろん、クライアントとしては
1%でも否認リスクがあれば困るわけで、結果としてこのような巨額の賠償に至ったと考えられる。

説明義務が問題になるので、書面などでリスクヘッジを、などと言われるが、法律で明確な場合は別にして、
国税のさじ加減で何とかなる部分を書面化するのは、相手の出方によって結論も変わるため極めて困難な事情が
ある。

古い税理士と話をすると、顧客とのトラブルはなあなあで逃げ切れた的な話も聞くことがあるが、もはやそれは
通用しない。常日頃から研鑽に努めるとともに、顧客との信頼関係を高める努力をしなければならない。
 



ABOUT ME

松嶋洋 税務調査対策専門及び税務訴訟に強い税理士。 16,000部のベストセラー『税務署の裏側』著者。 元税務調査官であり、税制改正セミナー講師を 務めるなど、税法解釈と調査対策を得意とする。 税理士が教えない超簡単な調査対策について、 無料レポート発行中
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