2015/03/23 12:31 PM NEWS

貸倒損失と税務調査

国税の都合のいい制度設計

立案者が意図したかどうかは分からないが、そう考えざるを
得ないのが貸倒損失の税務だ。貸倒損失は、「客観的に
みて回収できない」ことが明らかでない限り損には落ちないが、
この取扱いは往々にして国税に都合のいい結論になる。

まず、根拠条文。法律では、これしかない。

法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)3項
内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の
損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、
次に掲げる額とする。
一・二 省略
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

損失の額が損金になることは異論がないが、この損失は
債務確定したものでなければならないとされている。債務確定
する、すなわちお金が出て行くことが確実でなければならない
わけで、そうなると「客観的に回収不能が明らか」でない
限り、損には落ちないわけだ。

客観的に回収不能が明らか、などというが、その判断は
千差万別。このため、多くの会社は、会社更生法等で
法律上切り捨てられない限り、損に落とさない、という
対応になる。

ここで重要なことは、債務確定するタイミングは
複数は存在しない、ということだ。

国税が嫌がるのは利益調整。利益が出そうなタイミングで
損を落とすとなると、取れる税金が少なくなるため、
こういうことがないよう、タイミングを厳格に決めている。

法律上切り捨てられるまで待つ、という実務に対し、
その前に回収不能が明らかなのだから、過去損に落
とすべきだった、残念!という指導は不可能ではない。

反対に、法律上切り捨てられたことを失念した場合、
分かった段階で損に落としても、過去切り捨てられて
いるわけだから、分かった段階では損に落ちない、
という指導がなされることになる。

困ったことに、税には時効があるため、時効を
経過してしまえば、本来落ちるべき損を落として
いないとしても、救済されない。

客観的に明らか、などというがそれは最終的には
国税のさじ加減。彼らにとって都合が悪ければ
明らかでないとして損失を否認するだろうし、
時効を経過しているものであれば、時効で
落ちませんとして損失を否認する。

さじ加減が相手なので、法律云々では戦いづらい。
このため、国税を打ち負かす交渉力が必要になる。

こういう交渉力、勉強で身につくものではない。
国税の考え方や内情を知っている人間、すなわち
OB税理士が有利に立つ。

法律も知らなければ、申告書も書けない税理士(そもそも
こういう者を税理士と呼んでいいのか大いに疑問だが)が
幅を利かす、という腹立たしい結論がここにはある。



ABOUT ME

松嶋洋 税務調査対策専門及び税務訴訟に強い税理士。 16,000部のベストセラー『税務署の裏側』著者。 元税務調査官であり、税制改正セミナー講師を 務めるなど、税法解釈と調査対策を得意とする。 税理士が教えない超簡単な調査対策について、 無料レポート発行中
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