2015/05/01 9:00 AM NEWS

条文の書き方と包括的否認

組織再編税制の租税回避否認

法人税法132の2条に規定される、組織再編成税制に係る包括的
否認規定については、同族会社の行為計算否認規定と異なる
とヤフー事件において判断されている。

いろいろな識者の論文を読んでみると、

同族会社の否認⇒経済的合理性基準
組織再編成の否認⇒経済的合理性基準+法の趣旨の濫用

という関係性がある、と指摘されていた。組織再編成税制の
場合、法の趣旨にまで遡り、その趣旨にそぐわない適用が
なされればアウト、ということになり、同族会社の
場合には、そこまで見られるとは限らない、こんな
指摘がなされている。

このような指摘が正しいかどうかは別途、条文を見てみよう。

法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)1項
税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定を
する場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には
法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、
その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に
係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。

法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)
税務署長は、~合併等~に係る次に掲げる法人の法人税につき
更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、
これを容認した場合には、~法人税の負担を不当に減少させる
結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算に
かかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の
課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。

ごらんいただくと分かるとおり、132条と132条の2の
条文の構造は変わらない。

前例踏襲で条文を作らないと決裁が降りにくいためこうなるのだが、
それでは同族会社と組織再編成で否認されるケースが異なる
という事態はなぜ生じるのだろうか?

あくまで私見になるのだが、このような結論の背景には、
条文を作る人間の考え方がある。


組織再編成に係る条文は平成13年度改正で作られたが、
それ以後とそれ以前では条文の量が大きく異なる。
これは、憲法84条の租税法律主義を、平成13年度
以降は、

きちんと条文に明記すること

と捉えたからだ。従来から租税法律主義は存在した
ものの、きちんと条文に明記するよりもむしろ、
分かりやすい条文を作ることと解釈していた
節がある。

この点、専門的には正確と明快という
言葉で整理される。正確さを強めれば、
グレーゾーンは小さくなるものの、反面
条文を逆用しやすい。

一方で、明快を強めれば、条文が少なく簡潔な
ため、グレーゾーンが大きくなるが、反面グレ
ーゾーンを国税も使いやすい。グレーゾーンは
解釈によってシロにもクロにもなるわけだから、
けしからんものがあれば、クロになる解釈をする、
という対応が可能になるのだ。

以上を踏まえた場合、正確さを強めた組織再編成
税制は、悪用しやすい条文、ともいえる。となれば、
悪用することに対し、広く鉄槌を下す必要がある。
このため、行為計算否認の範囲は広くなるのだ。

趣旨まで遡るなんて無理だ、と思うが、本来の
文理解釈においても、趣旨は必ず確認すべき
ものでもある。リスクが高い取引については、
組織再編成税制はもちろん、それ以外においても
文理解釈の精度を高めるため、趣旨に目を通す
必要もあるだろう。





ABOUT ME

松嶋洋 税務調査対策専門及び税務訴訟に強い税理士。 16,000部のベストセラー『税務署の裏側』著者。 元税務調査官であり、税制改正セミナー講師を 務めるなど、税法解釈と調査対策を得意とする。 税理士が教えない超簡単な調査対策について、 無料レポート発行中
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